ごあいさつ

ごあいさつ

21世紀におけるモラルの再構築と道徳教育のさらなる深化を求めて

道徳科学教育センターの学術・教育活動―

現代に生きる創立者、廣池千九郎


センター長 中山 理

 環境破壊、モラル荒廃、教育崩壊など、現代の日本社会は数多くの問題を抱えています。そこには、「私たちは、どう生きるべきか」と自問しつつも、明確な答えを見いだせないまま、個人と社会の行動規範を模索する現代人の姿があります。21世紀の社会は、政治、経済、文化などの領域で新しい知識・情報・技術が重要となるという意味で、「知識基盤社会」(knowledge-based society)と言われていますが、単なる知識の向上だけでは、世界の人々の平和、安心、幸福は実現できないでしょう。知識を真に社会に生かすためには高い道徳性が必要で、新しい時代にふさわしい知の再構築とともに、現代社会におけるモラルの再構築も求められているのです。


 麗澤大学は、創立以来、知識を真に生かすものは品性であり、道徳性であるという「知徳一体」の教育理念を掲げてきました。麗澤大学の原点は、1935年(昭和10年)に学祖廣池千九郎が創立した道徳科学専攻塾にまで遡ります。道徳実行の効果を科学的に実証し、世界の平和と人類の幸福実現の道を確立しようとした廣池は、「モラロジー」(Moralogy)と名づけた新しい学問を、学校教育と社会教育の中で組織的に展開しようとし、「モラロジー大学」設立の構想を打ち立てました。「モラロジー大学」そのものは実現しなかったものの、この学祖の高邁な理想はその後も受け継がれ、専門学校、短期大学を経て1959年(昭和34年)に麗澤大学の開学として現実化します。


 開学当初の麗澤大学は「外国語学部」(イギリス語学科、ドイツ語学科、1年遅れて中国語学科)だけの単科大学でした。外国語学部としたのは、当時の日本が、敗戦によって領土と資源の四割を失い、年々100万人以上も人口が増加する状況にあって、どうしても海外への展開に活路を見出す以外、生きる道がないという厳しい社会状況があったからです。すなわち、国家の後ろ盾がない中で日本人が世界に貢献するには、グローバル・リテラシーに裏付けられた学識と、世界の人々から信頼される品性が不可欠だと考えたのです。


 麗澤大学開学式では、初代学長の廣池千英が、麗澤教育の特徴をいみじくも次のように述べています。「そもそも教育というものは、人間の心に仁愛の精神を植えつけますところの最高の理想であると私は信じておりますものでございます。この精神の上に現代の科学と知識とを植えつけて、これを応用してこそはじめて学問というものの光が出てまいるものでございます」。この「知徳一体」の思想は、開学以来の麗澤の道統および学統として、今でも大学教育の中核で息づいています。 


 廣池千九郎は「徳を尊ぶこと学、知、金、権より大なり」という格言も残しています。私たちの人生の基本となる軸足は、社会で手に入れようとして努力する学問、知識、金力、権力などの諸力よりも、人間の道徳性もしくは品性に置くべきであって、それらの諸力は、道徳性の基礎があってはじめて意味をもつという考え方です。


 モラロジーに基づく道徳教育は、麗澤教育の始まりでもあり、終わりでもあります。この点だけは、時代がどのように変化しようとも揺らがず、また動じることがありません。


麗澤大学における道徳教育の現状と新たな学び


「道徳科学教育センター」(CMSECenter for Moral Science and Educationは、本学が平成21年に開学50周年を迎えた際、この記念事業の一環として、平成20年4月より、麗澤における道徳教育の深化を図るため全学的な組織づくりを行うことを目的として設置した全学組織です。


CMSEでの活動内容は「教育活動」として、(1)「道徳科学」の授業運営支援および教材開発、(2)道徳教育の展開の場としての学生支援活動、「研究活動」として、(1)建学の理念に関する研究とその教授法の開発、(2)道徳科学(モラロジー)に関する研究とその教授法の開発、(3)倫理学、道徳思想に関する研究とその教授法の開発などを計画し、活動を行っています。


麗澤の道徳・倫理教育は、1)人格形成教育、(2)多文化理解教育、(3)専門倫理教育の3つの柱で構成されています。 上述したように、人格形成教育の中核を担う科目は「道徳科学A・B」であり、両学部の教養科目のコアとして位置づけることができます。「道徳科学」の教育内容は、(1)麗澤大学で学ぶ意義を自覚する(2)専門的な知識や技術を活かす上での品性や道徳の必要性を学ぶ(3)現代人特有の心の痛みや苦悩と正面から向き合う(4)地球環境全体の問題を道徳的な視点から分析し解決に取り組むスキルを習得する(5)民族・宗教の対立が絶えない国際社会において多元的な価値を容認するための「寛容」と「互敬」の精神を養成する、などのコンテンツで構成されています。 この「道徳科学」の授業では、前述した教育内容を学ぶための共通教科書として平成21年4月に『大学生のための道徳教科書-君はどう生きるか?-』を、さらに平成23年4月には『大学生のための道徳教科書〈実践編〉-君はどう考え、どう行動するか?-』を教員と学生のコラボレーションにより作成し、使用しています。


学部教育では、平成20年度に学部改組した外国語学部と経済学部で、各カリキュラムの中に道徳・倫理教育を導入しています。外国語学部では、(1)自校史を学び、麗澤のアイデンティティを確立するための副専攻コースとして21世紀の人間学(麗澤スタディーズ)」が新設され、(2)「道徳科学A・B」の上級編として「生涯学習論」が設置されています。学生参加型プログラムとしては、毎年4月に新入生を対象としたオリエンテーションで「自校学習」というプログラムが実施されています。ここで中心的役割を果たすのが「自校史クルー」と呼ばれる上級生で、新入生に対し麗澤大学について説明し、新入生の自校学習の導入のサポートをしようというもので、教員だけではなく在学生が積極的に麗澤の道徳教育に参画していく活動です。

このようなオリエンテーションは、群馬県谷川にある「谷川セミナーハウス」や柏のキャンパスで展開されるが、CMSEは、自校史クルーたちの学習の場を提供しています。


経済学部では、(1)「モラル」「IT」「グローバル」を、専門教育を貫く3つの横軸として位置づけ、全コースに「社会貢献」「コンプライアンス」など、倫理と公共性の視点を盛り込み、(2)企業倫理、コンプライアンス、CSR(企業の社会的責任)、会社法、知財法、リスク管理について学ぶ「企業法務コース」が設置されています。また、入学式後に実施している導入授業「社会科学分析入門」では、「建学の精神」および「自校史」についての講義が展開されています。さらに平成25年度からは「現代社会と道徳科学」という科目が新たにスタートします。


道徳教育の実践的取組―グローバル・ドミトリーとリーダー・セミナー


創立者の廣池千九郎は「モラロジー大学」の構想の中で、本学の寮制度を「大学の日課以上の重要事」であり「学生品性陶冶の根本原理の淵源するところ」と位置づけています。本学では1935年の創立時から全寮制を採用し、「自修研鑽の実力」を養う教育寮を中心に学生支援が行われてきました。1986年(昭和61年)から通学制を導入することとなったものの、現在の寮も教育寮としての位置づけに変化はなく、学生による自治寮体制を維持しています。大学では、全学レベルで学生支援を担当する学長補佐と学生支援グループ学寮担当を中心に、寮長の種々の悩みの解決や人間的成長を促進する目的で「寮長セミナー」を実施してきました。


平成25年度に新たに開設した国際寮の「グローバル・ドミトリー」(Global Dormitoryでは、従来の寮長制度を廃止し、グローバル時代にふさわしいコミュニケーション環境を重視して、より進化したラーニング・コミュニティーを創設するため、新たにユニット・リーダー制度を導入しています。したがってこれまでの「寮長セミナー」は「ユニット・リーダー・セミナー」としてよりきめ細やかな学生支援を行うこととなりました。


それと同時に、寮以外の場での学生支援として実施されているのが、学内の全課外活動(クラブ・同好会)の責任者を対象とし、他者への奉仕を通して自己の人格的研鑽を目指す「リーダー・セミナー」です。「ユニット・リーダー・セミナー」と「リーダー・セミナー」についてはさらなる拡大充実を図るため、平成20年より全学的規模で実施し、(1)「リーダー支援」に軸足を置いた全学的学生支援体制の構築(2)生涯教育の視点を踏まえた他の学生支援とのコラボレーションを進めています。


大学のCOC(Center of Community)としての活動を支援する

「道徳科学教育センター」


CMSEは、前述した学内の道徳・倫理教育の場としてだけでなく社会貢献活動を支援する中心的役割も果たしています。


平成23年、麗澤大学の学生により社会的貢献活動を行うための団体RSSRReitaku Student Social Responsibilityの活動を開始し、「麗澤大学の学生による社会的責任の追及」をテーマとしたプロジェクトが展開されています。この学生団体RSSRは、Refree、Risovp、麗澤taskforce、自校学習クルー、全国学生モラロジー研究会、RIFAなどのサークルとのコラボレーションも行っています。


このRSSRや上記のサークルに参加している学生団体をはじめとする団体や学生個人は社会奉仕活動として、留学生の多くが協力する地域の小中学校の国際理解教育、「ボランティア論」の実践的展開、東日本大震災復興支援への学生によるボランティア活動、留学生による国際交流活動、RIFA(麗澤国際交流親睦会)という学生の外国人留学生支援サークル活動、また地元光ヶ丘商店街との地域交流協定に基づく地域支援活動など多種多様な社会的貢献活動に参加しています。


CMSEは高等教育における道徳教育の推進にも寄与したいと考えています。前述した『大学生のための道徳教科書-君はどう生きるか?-』(2009年)、『大学生のための道徳教科書実践編-君はどう考え、どう行動するか?-』(2011年)などの大学の道徳テキストを作成した経験を生かし、平成25年度から千葉県の県立高等学校において「道徳の時間」が必修化されることを受け、高校生を対象にした道徳学習の副読本『高校生のための道徳教科書』を作成しました。これと連動して、平成25年8月には、高校教員が道徳授業の進め方を学ぶための「高校教員対象道徳教育講座(仮称)」をCMSE主催で開催する予定です。


この千葉県の高等学校での「道徳の時間」の必修化に備え、平成24年度には県内の複数の高等学校から本学に対し「教職員対象の道徳教育研修会」への講師派遣の要請があり、CMSEに所属する教員が出前の講演を行いました。


CMSEでは、関連法人である公益財団法人モラロジー研究所が行なう社会教育活動の一つ、「教育者研究会」にも講師を派遣し、道徳教育の社会的啓蒙活動の支援を行っています。この「教育者研究会」は、教育者や教育関係者を対象とした「学校、地域、家庭における道徳教育のあり方」について学ぶ研修会であり、平成23年度には全国95会場、平成24年度は全国97会場で開催され、それぞれ約1万人の参加がありました。この内CMSEは平成23年度に7会場に延べ7名の教員、平成24年度は9会場に延べ9名の教員を派遣しました。

  

グローバルな学術提携の構築と情報発信基地としての

「道徳科学教育センター」


CMSEはグローバルな学術提携の構築と情報発信基地としての役割を果たすことを目指し、現在まで以下のような活動を展開している。


平成22年にはアメリカのボストン大学「人格・社会的責任センター」(CCSRCenter for Character and Social Responsibilityとの研究・学術・教育における協力および交流に関する協定を締結し、倫理教育に関する共同研究を開始しました。その成果として平成24年2月にCMSEとCCSRとの共同執筆啓蒙書 Happiness and Virtue beyond East and West: Toward a New Global Responsibility(Tuttle Publishing)を出版しました。そして平成24年4月、ボストン大学でこの出版を記念して企画されたシンポジューム「グローバル対応力の倫理」(The Ethics of Global Competenceが開催された際、CMSEから3人の教授が研究成果の報告を行いました。


また、平成24年3月には、本学のオーストラリア提携校、オーストラリアン・カソリック大学(ACUからの要請を受け、このボストンとの学術的コラボレーションの成果である啓蒙書の内容をテーマとした講演を同大学のノース・シドニー・キャンパスとブリスベン・キャンパスで行いました。


平成24年12月には、ボストン大学との共同研究の成果に注目したイギリス・バーミンガム大学の「品性・価値ジュビリー・センター」(The Jubilee Centre for Character and Valuesが創立記念に開催した国際会議にスピーカーとしてCMSEが招待を受け参加しました。国際会議の統一テーマは「品性と公共政策」で、CMSEは「グローバル化と高等教育における道徳教育の再構築」のテーマで発表を行い、パートナーシップを構築しました。


このような活動はアジアでも展開されています。平成24年10月、台湾で開催された公益財団法人モラロジー研究所主催の「台湾モラロジー基礎講座」で、社会人基礎力と品性教育について講演を行いました。社会人対象のこの講座には、本学の海外交流提携校である淡江大学外国語学部日本語学科の学生も18名受講しました。


さらに平成24年11月には、ベトナム国家大学ホーチミン市校からの要請を受け、同校にて社会人基礎力と道徳性についての講演会を開催しました。今年の11月にも、日越修好40周年を記念し、同大学で経済と道徳についてのシンポジュームを開催する予定です。


平成24年11月、CMSEの岩佐信道特任教授がアメリカ、テキサス州サンアントニオで開かれた道徳教育学会(Association for Moral Education)の第38回大会でクーマーカー賞を授与されました。この賞は、学会の創立者である故クーマーカー博士にちなんで設けられた賞で、学会の発展と道徳教育の推進に貢献した人に対して授与されるものです。授賞の理由は、「『道徳教育国際会議』を麗澤のキャンパスで二度にわたって開催し、道徳教育に関する東西の交流を促進させたこと。日本道徳教育学会やアジア太平洋地域の道徳教育研究会の役員としてリーダーシップを発揮したこと。雑誌『Journal of Moral Education 』の編集委員を長年勤めたこと。日米の道徳観の比較研究に顕著な業績をあげたこと。道徳科学としてのモラロジーを創建した本学の創設者廣池千九郎博士の理想とその業績の理解・普及に努力したこと」などです。

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